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「本屋を守れ」藤原正彦

「本屋を守れ」藤原正彦

今日ご紹介するのは、専門基礎教育・リカレント教育に携わる人の参考になる1冊を ♬

私は全国・長野県の行政保健師の教育、大学基礎教育(保健師課程)を通して、思考力や俯瞰力、論理的思考を形成するために、各プログラムを考え実施して来ました。でも、短期間の関わりで育てるのは難しいこれらの基盤能力。大学の学部生には、自分で考えたり本を読んだりさせようとすると嫌われ、〇×選択肢で回答できる試験が学生にも大学にも評価される時代です。でも、〇×選択肢では、考える力も創造する力も、何も育たないのです。How-Toのパターンを覚えるだけ。独自の考えも発想もいりません。そのような教育をしていると、専門家として実務に就いた後、指示されなければ何もできず、自分で考えて創り出すことができず、降りて来たことをこなすだけになってしまいます。ですが、新人行政保健師にも、そのような問題が起こっています。

読書はすべての基本だと考えています。この本を読んで、その裏付けの一つを得られました。著者の藤原先生は数学者ですが、本書では教養の重要性を中心に述べられており、基礎教育/リカレント教育においても鍵となるヒントをいくつも与えてくれています。以下に少しご紹介したいと思います。詳細はぜひ手にとってご一読を^^。

〇人間は語彙を用いて思考している。語彙を知らなければ考えられない。思考も情緒もない。高校までの間に多くの語彙を獲得することが絶対的な使命。・・・以前学部1年生に「自分で思うことを言おうとしているのだけれど言葉が出ないんです、語彙力がなさ過ぎて」と相談されたことがありました。とにかく新聞や小説・ドキュメントや新書(ライトノベルではなく、少し自分には難しいなと思うもの)をたくさん読むようにと伝えました。彼女たちはその後、自分の成長をどのように自己評価しているかなと思います。

情報は「知識」と「教養」で高めなければ使いものにならない。それには本を読むしかない。情報はそれぞれ孤立している。組織化されて初めて知識になる。さらに知識と知識がつながることが教養。・・・行政保健師は様々なTopicsに関する知識提供型の研修を受けています。聴いて終わるタイプのものです。たくさんの「情報」が頭の中に蓄積されていきます。それを、きちんと吟味して、組織化(構造化)した「知識」「教養」として保存していないと、それはただの情報。知識とは何か?教養とは何でしょうか。

〇教養がないと大局観が生まれない。昔に比べてリーダーに大局観がない。※大局観とは、広い視野で物事を見て判断すること。・・・行政の管理期保健師の課題の1つに大局観があります。教養だけが要因ではないと思っていますが、1つの要因として考え、若手の時から教養を深めるとよいかもしれません。他国のように大学の4年間は教養教育を行い、その後専門教育を行うことが、ベストではないかというのが私の考えです。

〇集中した鍛錬の期間なしに専門家になるのは不可能。専門だけではなく教養書も読みふける必要がある。・・・大学4年間では徹底して教養を学び、その後専門を学ぶのが適切ということになりますね。

〇論証AならばBならばC・・・Z 出発点Aは常に仮説。これが誤っていたら正しい答えにたどり着けない。Aの仮説を選択する際の決め手になるのが情緒。実体験は狭い。補って余りあるのが読書!人間の判断に重要なものは情緒+大局観。これらはいずれも読書で得られる。・・・特に医療・看護・福祉などの人を対象とする分野の専門家は、情緒を豊かにするために、様々な文学作品を読むことが大切だと、昔は教えられました。今は昔から読み継がれているような文学作品は、あまり読まれなくなっているかもしれません。そのことが、新人の保健師の問題の1つでもある、情緒や共感力の乏しさ、コミュニケーション能力などと関わりがあるかもしれません。

〇民主主義とは、国民の総意で決まる政治形態。一人ひとりが教養とそこから生まれる判断力をもって初めて成り立つ。・・・日本が民主主義国家と言えなくなってきたのは、政治家の問題だけでなく、国民の側の問題もあるのかもしれませんね。

 20231118 blog 2

PHP新書ですのでサクッと読むことができます。

「手に取った時の喜びがインクの匂いとともに記憶に蘇る。これは幸せな経験」(藤原正彦)