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「水車小屋のネネ」津村記久子

「水車小屋のネネ」津村記久子

Booksの投稿が続いています。(伝えたいこと・情報はたくさんあるのですが、追い付いていません)

信濃の国はあちこちで雪だより。寒くて冷える夜に、暖かい物語はいかがですか?第59回谷崎潤一郎賞受賞作。1981年から2021年にわたる姉妹とその周囲の人々の物語で、終始ココアを飲んでほっこりするような物語です。悪い人は出てきません。あるのは人々の良心、繰り返される日常。

始まりは、虐待。母親の内縁男性による妹への虐待を知ったまだ、姉18歳が、妹8歳を連れて家を出て、見知らぬ土地にたどり着きます。現実的にはあまり考えられないかもしれませんが、水車小屋のある町で、ふたりは周りの人の「良心」に温かく見守られ、支えられて、年月を重ねていく。

「自分はおそらく姉やあの人たちや、これまでに出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている」(P384)

「自分が元から持っているものは何もなくて、そうやって出会った人が分けてくれたいい部分で自分はたぶん生きているって。だから誰かの役に立ちたいって思うことは、はじめからなんでも持っている人が持っている自由からしたら制約に見えたりするのかもしれない。けれどもそのことは自分に道みたいなものを示してくれたし、幸せなことだと思います」(P439)

日本にはもともと、そんな良心をもった人と人の支え合い、計算されたものではない、利害関係もなく、利権も絡まない、そんな親切や思いやりがあったはず。今は、日本の共同型組織のなかでは、自分にとって利益があるかどうかが最優先されて、長いものに巻かれてみたり、見て見ぬふりをしてみたり、そんな社会がはびこっているように思います。

だからこそ、この本を読んでいる間、優しい、懐かしい気持ちになれるのかなと。

冬の夜更けに合う1冊です♪

#sohca_books #読書#癒しを与える本