Articles Library title

誰がために医師はいる 松本俊彦

誰がために医師はいる 松本俊彦

薬物依存や自殺対策でご活躍されている松本先生の著書というので、拝読してみました。先生のこれまでや考え方を赤裸々に語られていて、これまでのイメージと大きく異なり、ある意味よい衝撃を受けました。(今日は以下、文体を変えて書いてみます)

 私は本書に書かれているように、精神科治療といえば「薬物療法」で、「精神科医療が薬物療法偏重」であり、それは「薬が最も低コストで時間がかからないから」だと捉えていた。保健師として地域で仕事をしていた時、心に何等かのしんどさや病を抱えている人たち(この世の中、心に何も抱えていない人はいないのではないかと思うほどですが)が、しばしば、主治医と合わない、睡眠薬etc.が欲しいなどの理由で、ドクターショッピングをしては薬を処方されるために、大量の薬が手元に積み上げられていくのを見て来たが(これは何も精神科に限った事ではないと思うが)、精神科医は何を治療もしくはケアと考えているのだろうかと、疑問を抱いてきた。何しろ、私たち保健師は30分どころか、1時間延々と話を聴いたり、一緒にこれからのことを考えたりしているのに、精神科では5分、10分という診療時間がざらだ、と感じていたからだ。

本書では、精神科医療がベンゾ依存症(ベンゾジアゼピン受容体作動薬に分類される睡眠薬、抗不安薬)を大量に生み出していることを問題と指摘し、ベンゾ処方の功罪について経験をもとに述べられていて、少なからず驚いた。(これまで、精神科医療に携わるドクターのなかに、このような考えを持ち示す人がいるとは思っておらず、偏見を捨てなければと思った。失礼しました・・)

また、覚せい剤だけを断罪し、薬物依存症患者を罪人として裁き、偏見をもって徹底して叩き、その背後にあるくるしみに目を向けてケアをしようとしない日本社会への警鐘をならしていて、共感と嬉しさを覚え、ぜひこの本を紹介したいと思った。カフェイン乱用エピソードはユーモアにあふれ笑えたが、覚せい剤以外にも、ベンゾ、カフェイン、そしてアルコール・・健康に影響を及ぼすものは、世の中に溢れてる。健康相談(ヘルスカウンセリング)をしていると、アルコールを毎日「別に飲みたいわけでもなく好きなわけでもないのに」大量に飲んでいる人たちに、40代から肝障害、腎機能障害、糖尿病、高血圧に肥満と、病気のデパートになっている人たちを多く見かける。覚せい剤以上に身体へのダメージは大きく、笑えない状況にあるのだが、ご本人たちは自覚がない。

最近では、「別に長生きしても希望もないし。いつまでも年金も出ず働かされるだけだから」と、放置し悪化、短命に終わる人生を描く人までしばしば見かける。なんとも悲しい希望を持てない日本社会なことか。。特に個人的に悩みやトラブルを抱えていないのに、アルコールにのまれている。こういう日本社会の希望を持てなさこそが根本的な問題であって、アルコールに限らず、覚せい剤にしても、依存させる要因にこそ目を向けるべきなのだと思う。このような考えを、松本先生も考えているのか・・と嬉しくなった。

<本文より>この世には「よい薬物」も「悪い薬物」もなく、あるのは薬物の「よい使い方」と「悪い使い方」だけである、ということだ。これが「なぜアルコールはよくて、覚せい剤がダメなのか」というあの患者の問いかけに対する、私なりの答えだ。

<本文より>「では、お薬を追加しておきますね」かくして患者は薬物依存症に、そして、精神科医は薬物療法依存症になる。

 

人類が進化の過程でアルコールを分解する能力を獲得したと考えられる理由や、アルコールに執着する理由ーコミュニティ、国家・・これらが大きくなっていくうえで、対立や軋轢を緩和し統合していくうえでアルコールの持つ応諾機能が貢献した、という考え方も興味深い。意外にも、毎日そこそこの量飲酒し体に影響が出ていても止められない人たちに「ストレス発散の方法は飲酒です」と言う人が少ないが、やはりアルコールによって葛藤や軋轢、対立など(主たるストレス源となり得る)をうやむやにしていることすら、自覚をしていないということなのかもしれないと、読みながら思った。

もう一節印象的だったくだりを紹介して・・ ぜひ手に取って読んでみてもらえればと思う。

<本文より>

アディクション(依存症)の反対語は、「しらふ」ではなく、「コネクション(つながり)」。(略)孤立している者ほど依存症になりやすく、依存症になるとますます孤立する。だから、まずはつながることが大切なのだ。

(でも・・・奄美などはつながりは濃厚だが飲酒が大きな問題になっていることは説明が難しいので課題である)