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「資本主義の次に来る世界」Jason Hickel

「資本主義の次に来る世界」Jason Hickel

原文タイトル「Less is more: How degrowth will save the world」のほうが内容を適切に表現していてしっくり来ます。私たちの法人の考え方の根底にあるもの、私たちが危惧して来た現代の資本主義社会の行く末について、明瞭に論じてくれていて、目からウロコでした。

<このまま資源を大量消費し、GDPの増加を目標指標とし続けることは何をもたらすか>

私たちは生活を見直さなければならない。

 20231016 Less is more Jason hickel book

導入では、現代の資本主義がどのようにして台頭してきたかについて、わかりやすく解説してくれます。つまり、自然で必然的なプロセスではなく、その背景では囲い込みと植民地化が起こり、土地とコモンズCommons(特定の人や団体が所有せず、誰もが自由に利用でき専用が許されない土地)が搾取され、搾取された人びとが生きるために工場で働かざるを得なくなった(労働力の搾取)ということです。自給自足の生活ができなくなり、土地とコモンズを搾取した特定の人間だけが富を肥やし、私富を増やすために公富を犠牲にしていった・・・。資本主義はそのようなことによってここまで来たのです。

ですが著者によると、成長には限界がありGDPと人間の福利の関係はある閾値を超えると、成長はマイナスの影響を与え始めるといいます。まさに、今の日本はアジア諸国の中でも先駆けてその状態にあるように思いました。

技術革新は重要でーそれはもちろん理解できます。著者も問題は技術革新ではなく、「成長欲求/成長」にあると述べています。技術革新が生態系にもたらすはずの利益が、資本の論理によって制限される。そうして、今私たちの目の前で起こっているように、生態系が崩れてきている。成長は、生態系の完全性を徐々に損なうとしています。

私たちは生活や価値観を見直さなければならない時代にあると思います。そうして、自分たちの生活を「消費する生活」から本当に必要なものは何か考えて、今までと異なる生活を送り、生態系を守らなければならない。

こうしたメッセージが端々に込められていました。実際世界が変わるのはなかなか難しいことでしょう・・・。おそらく、大きな犠牲を払わなければなりません。この本には「大量消費をやめる」ための具体的な5つの策も提案されています。

①計画的陳腐化を終わらせる(あえて短期間で故障する製品をつくる)

②広告を減らす

③所有権から使用権へ移行させる

④食品廃棄を終わらせる

⑤生態系を破壊する産業を縮小する

信州にIターンやUターンで移住された方々と話をすると、多くの方々が年齢に関係なく、大量消費をやめて、自給自足生活を(部分的にでも)取り入れて、本当に必要なモノを消費するに留める必要性や意義を選択されていると思います。東京で働き続けていれば、給料は1.5倍、2倍以上で、様々なモノであふれています。でも、その意味について問い、今の全く異なる生き方を選択した。

20231118 Hakuba 2

日本経済が上向きになる要素がなく、人口も増える要素がありません。そうなると生き方をまず変えていかなければ、成り立たなくなるのではないかと、若干pessimisticな考え方を持っています。これまでの資本主義は持続不可能で、また、貧富の差がますます開いて来ます。格差は広がる。

著者は、「富を所有するに値する人はいない」と述べています。人びとはしばしば自分を卑下して「下級国民」という言葉を使います。富や地位、権力を一度得ると、自分が他の人より優れており、富を手にするに値する人間であると錯覚してしまいがちです。ですが、そもそも資本主義で得られた富は、著者の言葉を借りると、「レントシーキングや政治的占有により、低賃金労働者や安価な自然から搾取したもの」です。私は厚生労働省や国立の研究機関に計約10年在籍する間、それを間近で実感して来ました。

デカルトの二元論についても言及しており、人間以外の生物は物質に過ぎない、という考え方が17世紀以降主流になってきました。そのために、自然は人間のイノベーションのために、安価に搾取され続けてきました。その結果が自然破壊、気候変動です・・・。次から次へと新たな消費物質を生産し消費し続ける社会。人間をケアする職業など、モノを生産しない職業はこの30年間!賃金が変わらず、専門性が高まっても、高学歴化しても、低賃金/頭打ち賃金です。(これには職業の歴史的背景や制度のしくみ、特定他者のレントシーキングなど様々な要因が関連していると考えますが)

今後の世界、日本の「人びとの生き方」について、今後どのような社会が来るか、その時人びとはどうなるか、取り残される人びとをだれがどうやって支えるのか。思考を刺激される1冊。保健師等専門職・行政職員の方におすすめです。保健・看護・福祉等の社会で生きる人びとの生活と健康にかかわる専門職は、こうした資本主義社会の成り立ちと構造について、学ぶ必要があると改めて思います。

※レントシーキング rent seek:民間企業などが政府や官僚組織へ働きかけを行い、法制度や政策の変更を行うことで、自らに都合よく規制を設定したり、都合よく規制緩和をさせるなどして、超過利潤(レント)を得るために行う活動。(Wikipediaより