Articles Library title

「自分流」辻仁成

「自分流」辻仁成

今日はこの本をご紹介したいと思います。元気がない時に。自分を励ましたいときに。

辻さんのエッセイを立て続けに3冊、「なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない」「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」そして本書を読みました。2020年コロナが世界中ではやり始め、初めてパリでロックダウンが行われた頃の話、そして少し日常を取り戻しつつある頃の話。フランスパリにおけるコロナ禍のあの年月。日本と全く異なるフランスの国民性、生き方、人生観が語られ、フランス流の個人主義が個性を尊重し、異なる個人に寛容であるとも取れるあり様が、同調圧力が強く、個人を主張することがむしろマイナスなこととなる日本社会に少々疲れた身にはホッとする。辻さんの言葉や対処方法に励まされ、2冊、3冊と手にとりました。

本書「自分流」でも、きっと元気づけられると思います。等身大で語られる内容だけでなく、辻さんが小説家、作家さんなので、時々とても文学的な表現で、それが心地よかったりもします。

例えば、「なぜ、生きているのかと‥」P35~37 

「物凄い静寂の中にいた。地の果てにいるような静寂が心地よかった。波と風の音が微かに聞こえてくるだけだった。音楽も車の音も人の声も何も聞こえなかった。いつもとは違う環境にいた。それから書きかけの小説を頭から読み直した。(中略)静寂の中、動き出した物語の中へとぼくは潜り込んだ。」

エッセイではなく小説ですか?ノルマンディ地方の風景をありあり思い浮かべて、癒されもするという。。

話がそれました。「自己流」の紹介でした。

例えば、ストレスでハンドルをうまく切れていないときは、どうしたらよいか。

「車庫に入らない車(つまり人生)そのものを一度、忘れてしまうのがいい。さわやかな風が吹き抜けていき、いらだっていたぼくが本来のぼくを取り戻すことができたとき、視界や周囲の音が変わりはじめ、心が落ち着き、集中力が増して、できなかったこと、苦手だったことができるようになっていく」

エッセイや随筆と一言で言っても、文体で与える印象は全然違うと感じます。彼の感性、合う合わないはあるのかもしれませんが、こういう対処法、いいと思いました。いかがでしょうか?!

以下、いくつかご紹介。

「どうしてこう人間という生き物は、いともたやすく横柄になることができるのだろう」「礼儀がない者に礼を尽くす必要はない。(中略)人間はリスペクトし合ってこその付き合いで、それがない人と素晴らしい人間関係を築くことはできない。(中略)そもそも、その人にリスペクトがあるかないかは、すぐにわかることあだ。ぼくは自分のリスペクトが足りないなと思うとき、反省をする。それぞれの持ち味というのか、よさを見つけてそこを評価するとき、人間というのは本気で動くものである。いいところは一緒にほめ合う。悪いところは一緒に直していく。それがリスペクトの基本ではないだろうか」

誰にでも、それまで生きてきた年月が存在します。でも、自分の驕りや自分のプライド、自分の利益のために自己中心に陥り、他人の人生を軽視し、その人のよさを殺してしまう人や組織が多いかもしれません。リスペクトし合う職場であれば、その組織はきっと発展していくけれど、軽視する組織に未来はない。陰口をたたくのではなく、お互いに良いところをほめ合い、悪いところは一緒に改善していくのが理想ですね。

「ガンバルモンカと唱えることで、やらなければならないという使命感に反抗することができる(中略)夜は寝るためにあるのだから花春モンカと自分に言い聞かせ、そこで不安を断ち切るくらいの気持ちで眠りに落ちた方がいい。」

夜は魔物が潜んでますよね(汗)過去のことをくよくよ考えたりして、いつまでも執着し引きずり続ける。辻さんは、何か強いストレスがあるためだといいます。未来を気にしすぎず、「今日」のことだけ考えて、ていねいに生きる。人間は過去から未来にわたり考える能力があるから、思い悩む。「思い悩むのは、今日のことだけで十分」なのです。

「ぼくはできるだけ邪気を自分の中に生み出さないよう、心がけている。とにかく、悪口や陰口には近づかないこと。絶対に関わりを持たないこと。自分の中にイヤな感情が生まれた場合は、風通しのいい場所に出て、太陽の光を浴びながら深呼吸を繰り返す。(中略)自分は自分、ぼくはそことは関わらない、そう思って先に行くのが、賢い生き方というものである」

イヤな感情が生まれたときの対処方法も、なんだかいいですよね。

情報通だったり、人の噂に敏感だったりする人は要注意・・情報に疎い自分は、知らないうちに、100%ありもしないことも含めて陰口を叩かれ、信頼も利益も損なわれる経験があるので、情報通の人には近づくまいと思います。後日紹介したい本「何もしないほうが得な日本」ともつながるのですが、、日本社会は長いものに巻かれ、忖度することこそが美徳で、出世の必要条件であったりするので、辻さんのように日本型組織の中でやっていると、「賢くない生き方」になってしまうかもしれないですが(汗)。

他にもいろいろメッセージや生きるうえで大事にするとよいよね!ということが書かれています。

個性をみつけて育むことの大切さ。好きなことをみつけ努力し続けることの大切さ。いい人になりすぎず自分の人生を生きることの大切さ・・・。

「自分にとって避けたい本性のようなものがあるなら、それが個性の芽である可能性を含んでいる。個性というのはそのくらい、社会性とは正反対のベクトルだったりする、と思っておけばいい」

「さびしいからみんな我慢していい人になって、ますます無理して、自分をすり減らしていくのでしょ?そんなのごめんだね、と思う。」

「好きなことをいくつも持ってエネルギーを湧きあがらせる。(中略)好きなことは、いくつも走らせておくのがいい。いくつものレールを同時に走らせる。しかも、どれも好きでなければならない。ひとつが廃線になっても、他を動かせば遠くに行くことができる。(中略)自分の人生は自分でもりあげていかなければならない。」 etc. etc. 

一読をおすすめしたいと思います。国が変わればかくも違う。

山の頂は雪化粧。秋が短すぎやしませんか?!全力で楽しみましょう。

20231022 trees hakuba