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「死に方がわからない」から始まる、生の問いかけ ー門賀美央子とともに考えること

「死に方がわからない」から始まる、生の問いかけ ー門賀美央子とともに考えること

「死に方がわからない」から始まる、生の問いかけ──門賀美央子とともに考えること

今日は少し重たいテーマを扱った本をご紹介。門賀美央子の著書『死に方がわからない』は、タイトルの通り、私たちが普段避けて通りがちな「死」というテーマに真正面から取り組んだ一冊。

私たちの心の奥にある、まだ言葉になっていない感情に静かに触れて来る。幼少期から身近にあった「死」という存在を出発点に、精神的な揺らぎ、社会からの疎外、母との関係、自死を選んだ友人たちの記憶などを織り交ぜながら、死を巡る個人的かつ普遍的な思索が綴られている。

「死にたいと思ったことがある」──それは、声に出すには重たくて、でも誰しもがどこかで通り過ぎたかもしれない感情。あるいはそれは、誰にも言えずに抱えている、孤独な痛みかもしれない。孤独な痛みがうずくーそんな繊細な場所にそっと寄り添ってくる本かもしれない。

「どうやって死ねばいいんだろう」──そんな問いを真正面から見つめたことがあるだろうか。

彼女は独身、子どもなし、兄弟姉妹なし、三頭身以内は全員年上。そのため、自分がどのように死ねばいいのかわからないという。そこで、1つずつ疑問について調べ、探求したこととその結論が語られている。

死に方・死因についてー自分が希望する死に方・死因について。孤立死を避けるための、「異変が合ったら気づいてもらえる体制づくり」について(エンリッチの見守りサービスに登録する)

死に場所についてー3ヶ月に達してしまうと緩和ケア病棟から出されてしまう(診療報酬が下がるため)。病院で死ぬのが難しくなっているというシビアな現実を知る。

リビング・ウィルについて「無駄な延命治療」とはどのようなことか深く考え、正確な認識をもったうえで、尊厳死を選択したい場合は、事前に明確な意思表示をする必要がある。二穴ルーズリーフを使い書き替えが必要になっても該当ページを交換すれば済むようにするといい(ネットでエンディングノートのフォーマットをダウンロードして使用してもよい)

尊厳死の仕方についてー「救急医療情報キット」「緊急医療情報キット」が市販されているのでそれを購入し、「臓器提供意思表示カード」とともに準備し、陽気の保管場所がわかるように冷蔵庫や玄関にシールを貼り示す。(横須賀市には「わたしの終活登録」事業があり、自治体に登録しておくことができる)

死に方計画を作るー①個人情報(現住所、電話、生年月日、家族構成と居住場所、本籍地)、②緊急連絡先、③医療情報(血液型、アレルギー情報、健康状態/健診結果)、かかりつけ医(通院情報)、服薬情報、リビング・ウィルの保管場所、臓器提供の意思表示、④死亡後の後始末情報(エンディングノートの保管場所、遺言書の保管場所、生前契約している業者名と連絡先/葬儀会社、遺品整理、弁護士・司法書士・行政書士、墓所、生前契約していない場合の希望の業者名と連絡先)、献体希望の場合は献体先、⑤金融情報(金融機関名と講座番号、クレジットカード会社名とカード番号、掛けている保健の種別と受取人名、株式/投資信託先、債権/負債)、⑥その他(自分の身の回りを始末するためのあらゆる情報)

介護が必要な状態に陥ると、快適に過ごせる体制をつくるー(これについて本書では、ヘルパーや地域包括支援センターの活用を取り上げているけれど、ヘルパーや訪問看護を5年後、10年後、私たちの住まいで受けられるかどうかは疑問視されてきている。)

 

準備する過程で湧いてくる疑問や困難について、正直な言葉で語っているのがいい。時には皮肉っていて痛快だと感じる。この本は決して、死にたい人のためのハウツー本ではない。むしろ、死と向き合うことを通して、「どう生きるか」を考えさせられる哲学的な作品であり、読後には必ず、自分自身の「生」に目を向けずにはいられなくなる。彼女の語る言葉は、あまりにも正直で、あまりにも静かで、そしてどこか自分の中に眠っていた感情を呼び起こしてくる。

最終的に彼女が考えた自分の死に時は、「親が死んだあと、最初に死病がみつかった時、死に至る事故や事件に遭遇した時」と結論づけながらも、「過去の自分(死に方計画を立案した時点の自分)」がどこまで「死を目前にした自分」の意思に優先されるのかという最後の疑問にたどり着く。

命を救うことが第一義である医療の現場。医師や看護師、医療従事者は、死なせないためにできる限りのことを行うよう、倫理観を備えている。これについては疑問だけれど、結局本人や家族が日頃から「無駄な延命治療」とはどのようなことか深く考えること、どこまでの治療が本人(患者)にとって望ましいことなのか考えておくことが本当に重要だと思う。

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現代社会では、「死」はメディアによって消費され、個人の体験としての「死」はしばしば曖昧にされてしまう。本書では、そのような空虚な「死」に抗い、あくまでも自らの体温をもって「死」を考えようとする。「死にたい」という感情は、死そのものへの憧れというより、現実のこの場所から抜け出したい、という切実な叫びであるとする。私はどう生きたいんだろう?どう終わりを迎えたいんだろう?誰と、どんなふうに時間を過ごしたいのだろう?

「死に方を知らないということは、つまり生き方も知らないということだ。」

そのとおりだ。「死」が私たちに突きつけるのは、実は「生」の輪郭なのだと思い知らされる。

「死に方がわからない」というタイトルが、どこか優しく響く。死に方がわからないのは、私だけじゃない。あなたも、あの人も、きっとそうだ。そしてそれは、間違いじゃない。わからなさを抱えながら生きていくこと。明確な答えのない問いを持ったまま、誰かとすれ違い、誰かと少しだけ理解し合い、時々涙して、それでも何かを見つけようとすること。それが、生きるということなのかもしれない。

彼女が言っているように、残りの人生、もう少し誰かにとって「良き縁」であることができるようにして、始末をつけていきたいと思う。

文庫版も出版されたので、是非ご一読を。

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