今日の1冊は「透析を止めた日」。ノンフィクション作家の堀川さんが、32歳の時に多発性嚢ほう腎の診断を受け、透析、腎移植、再透析を経て60歳で逝去された夫の病の記録を克明に記録した手記であり、腎透析患者の終末期ケアの現状と課題についての報告です。
今、「健康」という言葉はいささか使い古されて、少し敬遠される言葉となり、「Well-being」という言葉が流行っているようで、あちこちで聞かれます。この言葉が現在のしあわせ、とか癒し、とか、自己実現、無理しない生き方、自分らしく生きる、といったニュアンスで用いられることに異論はないのですが、ずっと違和感を覚えていました。この本を読みながら、その理由がわかりました。
私たちの生命には限りがあります。最近使われているwell-beingには、病や老いにより思うように日々の生活も送ることが難しくなったり、死に向かって日々を歩むときのWell-beingについて語られないからだった。
死にゆく Well-being について、考えたことはありますか?
語られる病の記録は理性的・客観的に克明に記録されており、その日々は壮絶で、言葉に表すことができないものでした。
腎透析を行う背景には、様々な病気があります。糖尿病がよく聞かれますが、それだけではありません。(もちろん糖尿病から腎不全になる方が多く、糖尿病域で未治療・放置されている方には、是非読んでいただければと思います。。透析治療とはどのようなものなのか、腎不全の末期についての知識を得ることができるこれ以上にない書といえるでしょう・・・)
週3日1回4時間の透析。透析後はドライウェイトに戻すために常に水分制限が必要で我慢の連続。透析期間が長くなると血管が傷み体に堪えるため、無理して引くことができないため、体が次第にむくんだり、胸水を発症して呼吸困難になったりする。 水分摂取1日500ml 塩分6g以内まで(塩分は身体に水分を呼び込むため)
リンが増えるとCaがリンと結合し血中カルシウム減少してしまうので、リンをコントロールしなければならない。有機リンは良質なたんぱく質とセットになっている(肉、魚、大豆、乳製品など)ので、たんぱく質の食品も考えて摂る必要がある。無機リン(リン酸塩)は瓶や缶に入った食材、ソーセージ、ハム、レトルト、清涼飲料水などの加工食品・防腐剤に使われているため、どうしても身体が吸収してしまう。
カルシウム濃度を維持するために、今度は副甲状腺ホルモンが異常に働いてしまい、副甲状腺腫大(骨からカルシウムを血中へ放出)。副甲状腺摘出手術が必要になる。
多発性嚢胞(のうほう)腎の患者さんでは、肝嚢胞が増える場合があり、肝嚢胞が横隔膜を押し上げると呼吸困難になり、その先には肝臓機能喪失(肝機能の数値は正常だった)や腹水の苦しみがある。そして肝移植をする必要が出てくる。
次々と襲う症状、苦しみとの闘い。穏やかな最期を迎えられないー
透析患者/腎不全患者の終末期(透析を導入できなくなった後)の鎮静や鎮痛についての知識と経験がある医師・看護師・医療従事者がまだ乏しいこと、透析の出口を整えてこなかった日本の医療がとわれるべきとくくっています。がん患者の終末期では、疼痛コントロールの技術も進み、ホスピス病棟も広がって来たこの30年でしたが、透析患者の終末期がこれほどまでに手つかずとは・・・。
迫りくる死の恐怖。今、あれをもう一度やれと言われたら、正直なところ、全力で辞退したいと思う(P237)
この苦しみは、自分がずっと昔に親をがんで亡くした時のことを思い出させ、胸が苦しくなりました。今、こんな言葉があるのをご存じですか?
SDM:Shared decision making 共同的意思決定
ACP:Advance care planning 亡くなる日まで患者がどう生きるか。本人、医療者などが十分に話し合い、決めていく。患者一人ひとりの希望を尊重し、最期まで自分らしい人生を送るために重要な取り組みのことをいいます。「看取りは生き方の問題」 まさにWell-beingを考えることに含まれるのです。
腎代替療法には、血液透析の他に腹膜透析があります。私が看護師をしていた数十年前から腹膜透析の患者さんはいましたが、今に至るまで広がらず、
「日本の腹膜透析患者は2.9% 終末期に腹膜透析導入を希望しても在宅医療を支える体制の整わない地域がまだまだ多い」
と著者は本書で報告しています。一方、著者曰く、
「終末期における腹膜透析の有効性/Palliative PD(緩和PD)についての研究もなされており、腎機能が残っている段階から腹膜透析PDを徐々に導入し透析をはじめ(PDファースト)、腎機能がなくなる段階で血液透析に移行し、終末期には再び腹膜透析PDに戻る(PDラスト)が理想的。このPDは自由度が高く、穏やかな最期を迎えられる。終末期に腹膜透析を選んだ透析患者、家族、医療者も納得して死を見送っていた」
とのこと。
なぜ、広がらなかったのか。その背後にある、血液透析ビジネスがあることを示唆されています。透析ビジネスについては有名な話で、今後も消えることはないのだろうと思います・・・。これからの若いナースには、是非在宅での緩和PDの知識とスキルを身に着けてほしいと願います。
「透析を止めて治療行為を中止する」ものではなく「透析をやらずに別の方法で患者さんの症状の緩和を目指す」
<是非こちらもご覧ください>
人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/saisyuiryo_a_r04.pdf
また、高齢腎不全患者の保存的腎臓療法(CKM)についてもガイドラインが出されるなど、高齢腎不全末期患者を中心に「死ぬまで透析を回し続ける」終末医療の在り方について、(これまでタブー視されてきたようなところがありますが)議論が始まっています。これは、Well-beingやACPの観点からも大切なことだと思います。



